大師を偲ぶ遍路行に参加して by 岡田美智世

小豆島菩提同心会主催の「大師を偲ぶ遍路行」。
それは毎年4月に行われ、全国各地から老若男女が集まり、
小豆島88カ所を1週間で巡り結願するというもの。
と言葉にすると簡単だが、この遍路行の一番の特徴は島の遍路道を全て歩いて巡る事にある。
少しでも歩いたことのある人は、「全部歩くの? 1週間毎日?!」と驚嘆の声をあげる。
そう、歩くんです!雨が降っても、風が吹いても歩くんです。

そんな過酷な遍路行に今年集まったのは、北は北海道から、南は鹿児島。
(のはずが、直前に起きた熊本大地震の影響で、鹿児島の方は来ることができませんでした。)
年齢は、40代から90代まで!!
今年の参加者の顔ぶれを見たところ、平均年齢は60歳くらいだろうか?
スタッフ合わせて総勢50人程が白装束を着て、和袈裟をかけ、菅笠をかぶり、
金剛杖をついて歩くのは圧巻で、島の人も立ち止まる。

もちろん伴走車も用意されていて、高齢の方や体の不自由な方、
初参加で全行程を歩くのが心配な方などは、所々で車に乗ることもできる。
しかし、基本は全て歩く。
初めての参加者に対して、スタッフの方はそれぞれの体力やその日の行程を見極めて、
車に乗るよう促してくれたり、皆とは別の負担のないコースを歩くよう進めてくれる。

かくゆう私も今年が初参加。しかし私は今回の参加者の中で最年少であり、弱音は吐けない。
更に島の遍路道を何カ所かは歩いた経験もあるので、スタッフの方からも
「あなたは大丈夫そうね!」と初日以外は完全放し飼い状態だった。

こう見えて?!島に来る前の私はロードレーサー(スポーツバイク)で
1日100キロ以上を走ることもあった。
もともと歩くことも嫌いではないので、体力的な心配はしていなかったが、
1週間ぶっ続けで歩くと言うのは経験が無く、まるで自転車のグランツール
(3週間で約3000〜4000kmを走るプロのレース)みたいだなとワクワクする半面、
他の参加者に迷惑をかけないように完歩しなければと思い、前日は緊張からか?あまり眠れなかった。
そんな私の2度目の結願を目指す「行」が始まった。

初日の2016年4月16日(土) 晴れて暑い1日。
晴れれば暑いと文句を言い、雨が降れば寒いと弱音を吐くのが人間というもの。
朝8時、霊場会総本院で戒を授けていただく。

初日は土庄から前島をぐるっと回るコース。歩数は3万歩を超えた。
予想はしていたが、驚きの数字だった。
しかも、この日は舗装された道路を歩くコースだったので、
安いウォーキングシューズにしたのだが、失敗だった。
後半から足の裏がとても痛くなり、足の小指にマメができて水ぶくれができてしまった。

2日目は雨の予報だったが、思ったほど降らず、雨具もほとんど要らない程度で助かった。
この日は山を登るコースだったので、昨日の反省もありトレッキングシューズを履いて行った。
私が持っている唯一のトレッキングシューズは4000m級の登山にも使えるという、
結構ゴツイ靴なので普通の道では重くて負荷がかかるが、山道は足元が安定して歩きやすい。
そして、昨日と同じ3万歩超えだったが、山道の方が足にかかる負担が少ないのか?
山の緑に癒されたのか?それほど苦しまずに歩き切る事ができた。
この日の最終地点は滝ノ宮口という山の中。
翌日はここまでバスで送ってもらい、同じ場所から歩き始める。歩く場所のダブりはあっても、ズルは無い!

3日目はこの遍路行の「The 行!」とも言える過酷な峠超え4連ちゃん。
4つともトップ通過したら山岳賞間違いなし!っていうのはグランツールの話で、
私たちは1列にのんびり一歩一歩踏みしめながら登る。
登って下って、登って下って、登って下って登って…。
やっぱりグランツールだ!ドロミテ、ピレネー、アルプスを登るクライマーの姿が脳裏をよぎる。

朝、遍路宿を出てすぐに恵門の瀧まで登り、宿まで降りる。
そして次はいよいよ”豆坂”。その名の通り足に豆ができるほどキツイ坂ということらしい。
この道は何年か前に登ったことがあり、知っているだけに恐ろしい。
登っても登っても先が見えない。
そんな時に隊列の後ろの方から大きな声で「唱え奉る〜♪」という歌が聞こえてくる。
すると他の人は「ざ〜んげ懺悔!」「六魂清浄」と後をついて唱える。
ただでさえ呼吸が苦しいのに、なぜだ???と思ったが、しんどい時にこれを唱えると、
息を吐くので、その反動で沢山空気を吸って楽になると言うのだ。
う〜ん、正直楽にはならなかったが、頭出しをしてくれる人のパワーにつられて、
なんとか大きな声で唱えながら頂上まで登った。

吉田ダムを下り、吉田庵でお勤めをした後のよもぎ餅が美味しくて2つともペロリとたいらげた。
所々でこの日の為にお接待に来てくれた地元の方や関係者の方、本当にありがたい。

さて、次に待っていたのは”いざり坂”。ちょっと大粒の雨が降り出した。
雨具を着ると、蒸れて暑くなり、よけいしんどいが仕方ない。
そしてここでも「唱え奉る〜♪」と来て「南〜無大師、遍照金剛」「お大師さ〜まに光明真言」と続ける。
ようやく峠を越えたけど、今度は海沿いの舗装道路を延々と歩き、最後の”橘峠”。
この日はなんと4万歩を超えた。一緒に歩いていた私より小柄な方は私以上の歩数だった。
しんどいはずだよ。遍路宿ではもれなく爆睡zzz。

4万歩が思ったほど身体にダメージを与えていなかった様子で、爽やかな4日目の始まり。
この日は苗羽から田の浦までの往復コースだ。眩しいほどの日差しの中を海を眺めながら歩くこのコースは
島外から来ている人にとってはもちろん、島に住んでいる私にとっても「あ〜良いところだな〜」
と思わせてくれる。
景色も手伝ってか?身体が慣れたのか?”馬立峠”という峠も超えたが、なんだかとても楽な1日だった。

5日目のコースは寒霞渓から三都半島へのコース。
天気にも恵まれ寒霞渓の奇岩を眺めながら歩く絶好のハイキング日和。
しかし、最終地点の薬師堂まで歩くには時間切れとなり、途中でバスに回収された。
皆さん歩ききるつもりでいたが、時間を止めることはできないので仕方がない。

6日目は前日たどり着けなかった薬師堂から始めるも、
この日は、まるで私たちの信心や根性を試すかのように雨風の1日となった。
疲れも累積しているところへの容赦ない雨と強い風に靴もびしょぬれ。
後半になると、もうどうでもよくなって、「足ふやけてるだろうね?」と笑いあう始末。
きっと独りで歩き遍路していたら、絶対に雨の日は歩かないだろう。
皆が一緒、そして限られた日程の中で行うから、どんな状況にも誰も弱音を吐かない。
そんな皆さんの後ろ姿に引っ張られているような気持ちさえした。

最終日は晴天。お大師様が最後のご褒美をくださったのだろうか?
住み慣れた中山から土庄までの遍路道。
住んでても「え〜ここが遍路道だったんだぁ!」と発見もいっぱいあった。
全行程を通じて感じたことだが、いつも車でしか行かない場所へ遍路道で行くのは新鮮だった。
アプローチの仕方で印象も別物になる。
しんどくて、一人では怖くて入れない山の遍路道も、皆と一緒だと安心して歩ける。
この遍路行に参加して良かったと思った。

そして今回、遍路宿に宿泊するのも初めての経験だった。
遍路宿がどんなシステムなのか?宿では、お遍路さん達はどんな風に過ごすのか?

まず、宿に着くと金剛杖の杖先を洗い、杖立てに立てておく。
菅笠は食堂にある床の間の横に全員分を重ねて置いておく。
夕食前のお勤めには白装束と和袈裟を身に付けていき、いつもと違うのは島の全ての仏さまのご真言を唱える事。
お勤めが終われば、和袈裟と白装束を脱ぎ、お供えのご飯を皆で分けて食事を楽しむ。
お酒を飲む人だっている。お勤めがある以外は、普通の宿泊と変わらないのだ。

それにしても皆、2日間歩き続けても、とっても元気だ。これも「おかげさん」なのだろうか?

そして、1週間、遍路宿に泊まりながら歩くお遍路さんの一番の悩みが「洗濯物」だという事を知った。
汗をかいたり、雨に濡れたり、山道で滑って転んで汚れた白装束を洗濯しようと、
宿に着いたら一斉に洗濯機コーナーに向かう。
順番待ちをして、最後の人が終わるのは深夜になることも。
すぐに自宅に帰れる私などは「家に帰ってから洗えばいいや」と気楽に考えていたが、
島外から参加してる方々は、宿に着いても「行」が残っていた。
それでもなお毎年参加している方の原動力とは如何に?

何はともあれ1週間で全札所、歩ききりました!
個人的には「昨年の今頃も丁度お遍路していたなぁ」と様々な事を思い出しながら歩きました。
参加者の皆さんはとても明るく元気で、全国各地から集まった方といろんなお話しができて、とても有意義な1週間でした。
どんなにしんどくても頑張っている人々を目の当たりにして、これからも頑張れそうな勇気ももらえました。
スタッフの方がこの遍路行は1度参加したら癖になるから、
30年近く続けている参加者もいると話していたのがわかるような気がします。

最後に、この遍路行の根本には、歩き遍路の文化と、遍路道を後世に伝え残そうという
有志の方々の並々ならぬ努力があるという事を知って頂きたい。
毎月、日を決めて、今回歩いた遍路道の草を刈ったり、崩れた石段を直したり、
歩きやすいように手すりを付けている人々がいます。
その活動に感動して、この遍路行を続けている参加者もいます。
島に住んでいてもその活動を知らない人はたくさんいます。

私自身、島の素晴らしい伝統や文化、自然を残したい気持ちはあっても、
何をして良いかがわからないし、個人では出来ない事もある。
でも、この遍路行に参加して、その良さを伝えることならできそうな気がします。
この手記を読まれた方の一人でも「参加してみたいな?」と思っていただけたら、少しはお役に立てたと言えるでしょうか?
来年も同じ時期に開催されます。
全行程でなくとも可能な日だけでも参加OKなので、どうぞ島内島外問わず、参加されることを願っています。

皆様のおかげさんで無事結願できました。ありがとうございました。

【全行程と歩数】
4月16日(土)万歩計 36463歩
霊場会〜松風庵〜西光寺〜甘露庵〜江洞窟〜浄土庵〜大乗殿・蓮華寺〜旭屋で昼食〜浄源坊〜光明寺〜本覚寺〜等空庵〜松林寺〜瑞雲堂〜瑠璃堂〜長勝寺〜滝宮口 …旭屋旅館

4月17日(日)万歩計 33644歩
旭屋旅館…滝宮口〜滝宮堂〜笠ケ滝・瀧湖寺〜救世堂〜大聖寺〜三暁庵〜歓喜寺〜金剛寺〜藤原寺〜雲胡庵〜薬師庵〜観音寺〜山の観音〜なかや旅館

4月18日(月)万歩計 41396歩
なかや旅館〜恵門の瀧〜なかや旅館〜(豆坂)〜吉田庵〜(いざり坂)〜福田庵〜雲海寺・本地堂〜当浜庵〜海庭庵〜楠雲庵〜(橘峠)〜岡之坊〜ひろきや旅館

4月19日(火)万歩計 35661歩
ひろきや旅館〜観音堂〜庚申堂〜常光寺〜向庵〜碁石山〜洞雲山〜隼山〜観音寺〜古江庵〜堀越庵〜田浦庵〜(馬立峠)〜西照庵〜栄光寺〜ひろきや旅館

4月20日(水)万歩計 41899歩
清滝山〜佛ケ滝〜石門洞〜一ノ谷庵〜極楽寺〜大師堂〜清見寺〜木ノ下庵〜峯之山庵〜本堂〜安養寺〜誓願寺庵〜桜ノ庵〜阿弥陀寺〜薬師堂…旭屋旅館

4月21日(木)万歩計 36676歩
旭屋旅館…薬師堂〜風穴庵〜正法寺〜誓願寺〜保寿寺庵〜愛染寺〜長勝寺〜保安寺〜佛谷山〜西の瀧〜林庵〜松風庵〜光明寺〜釈迦堂・明王寺〜浄土寺…旭屋旅館

4月22日(金)万歩計 18034歩
旭屋旅館…浄土寺・地蔵寺堂〜湯舟山〜栂尾山〜毘沙門堂〜多聞寺〜円満寺〜東林庵〜遊苦庵〜旧八幡宮・宝生院・宝幢坊〜観音堂〜行者堂〜霊場会総本院にて結願

2016-02-08 | Posted in 体験談No Comments » 

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